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名古屋地方裁判所 昭和30年(ワ)1910号 判決

原告 株式会社兵庫相互銀行

右代理人支配人 小坂一次

右代理人弁護士 堀部進

被告 福島敏之

〈外三名〉

右被告四名代理人弁護士 中根孫一

右復代理人弁護士 榊原幸一

主文

原告に対し

被告福島敏之は金二十四万二千六百四十円及之に対する昭和三十年十一月二十三日以降完済迄年五分の割合による金員を支払え。

被告服部一夫、被告竹内信一は被告福島敏之と連帯して前項元金中内金十万円及之に付き昭和三十年十一月二十三日以降完済迄年五分の割合による金員を支払え。被告増田かぎは被告福島敏之と連帯して第一項記載元金中金五万円及之に付昭和三十年十一月二十三日以降完済迄年五分の割合による金員を支払え。

原告其の余の請求は之を棄却する。

此判決は原告勝訴の部分に限り執行前担保として被告福島敏之に対し金八万円、被告服部一夫、竹内信一に対し各金四万円、被告増田かぎに対し金二万円を供託するときは仮に之を執行することができる。訴訟費用は之を十分し其の五を被告福島敏之の其の二を夫々被告服部一夫、竹内信一の、其の一を被告増田かぎの負担とする。

事実

≪省略≫

理由

(一)  被告福島敏之に対する請求に付て。

右被告が昭和二十九年十月原告銀行に入社し翌三十年九月迄勤務したこと、並に右勤務中同人がその担任業務として集金し原告銀行に交付すべき相互掛金の一部を費消横領したことは弁論の全趣旨に徴し当事者間争なきところ、右横領期間並にその金額は成立に争なき甲第二号証及証人森本貞郎、被告福島敏之本人の各供述を綜合すると昭和三十年七月五日頃より同年九月十四日頃迄の間に於て合計金二十九万六千五百四十円であることが認められる。依て同被告は原告銀行に対し同額の損害を蒙らしめたものと謂うべきところ之より当事者間争なき一部弁償額金五万九百円及原告自陳の同被告に支払ふべき勧誘費三千円を控除するときは結局原告主張に係る金二十四万二千六百四十円の賠償義務あること明であるから右金額及之に対する本件支払命令送達後である昭和三十年十一月二十三日以降完済迄民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める原告の請求は全部正当として之を認容する。

(二)  被告服部一夫、竹内信一、増田かぎに対する請求に付て。

右被告等は被告福島敏之が原告銀行に勤務したことのみを認め其の余の原告主張事実を争うけれども右福島が前掲の如く右勤務中掛込金集金の費消横領に依つて原告銀行に対し損害を蒙らしめ其の損害額残額が結局金二十四万二千六百四十円であることは前段認定の通りであつて、被告服部及竹内に於て訴外鈴木鋭治の氏名捺印部分を除き成立を認める甲第一号証の一、被告増田に付成立に争なき甲第一号証の二、証人宇佐美清一、被告服部一夫、増田かぎ、福島敏之の各供述を綜合すると、被告福島敏之が前記原告銀行入社に際し昭和二十九年十月五日頃、被告服部一夫、竹内信一に於て原告銀行との間に被告福島の在職中同人の不注意又は不正行為に依て原告銀行に損害を蒙らしめたときは本人及保証人連帯して之が弁償を為すべき旨身元保証契約を締結したこと、又之より後右とは別個に被告増田かぎに於て昭和三十年六月二十五日原告銀行との間に前同趣旨の身元保証契約を為したことを認めることができる。

然るところ右身元保証人である被告等は事実欄掲記の如く主張して其の責任の限度は減縮せらるべき旨主張するから按ずるに右被告等が身元保証契約を為すに至つた事情及被告福島と右被告等との身上関係が其の主張のごとくであることは被告福島、増田、服部各本人尋問の結果に徴し之を窺うことができる。而て証人三和田千代及被告福島本人の供述に依ると本件原告主張の横領行為直前である昭和三十年五月頃被告福島敏之に於て約五万円の集金横領の事実があり当時原告銀行に於ては之を発見したが其の弁償を受けた丈で之を黙過した事実を窺知することができるのであるが当時原告銀行としては如斯事実があつた以上被告福島に対しては其の集金業務の監督上一層の留意をなすべきであつたに拘はらず爾後何等特段の措置に出たことを認めるに足る証拠がなく間もなく本件費消事件の発生を見たことに付ては原告銀行に於も監督上の過失あるものと謂はざるを得ない。尚被告福島が最初見習として入社し其の後得意先係を担当其の集金額が逐次増加したこと並に右に関し原告銀行より何等身元保証人である被告等に通知をしなかつたことは弁論の全趣旨に徴し原告も之を争はないところであるが全立証によるも右集金額が特段の増加を示し且又其の他身元保証人等に対し被傭者の任務の変更として其の通知を必要としたものと認むべき程度の証左は存しない。又保証人である被告増田かぎが被告福島の集金の様子等より判断して同人の勤務振りに疑惑を拘き原告銀行係員に注意を促したことは被告増田かぎ及証人宇佐美清一の供述に依て之を窺うことができる。然し同被告主張の如く被告福島に集金費消等の事実あるも身元保証人としての責任を追及しないことを原告銀行と約した迄の事実は之を認め難い。然しながら右増田及宇佐美両名の供述に徴するときは被告増田が福島に不正或は不誠実の事跡あることを知り身元保証人として其の責任の惹起せんことを惧れ将来に向つて身元保証契約の解除をなしたるにあらずやとの観がないでもないけれども此の点に関する主張並に立証充分でなく又其の日時等も明瞭を欠く。

以上被告福島敏之との身上関係並に前掲原告銀行の監督上の過失其の前記諸般の事情を綜合考慮するときは右身元保証人である被告等の責任の限度は若干の減縮あるべきものと思料せられ其の損害賠償責任額は被告服部一夫、竹内信一に於て夫々金十万円、被告増田かぎに於て金五万円を相当とする。

依て前記認定に係る被告福島敏之の損害賠償債務に付き被告服部一夫竹内信一は内金十万円に付き被告福島と連帯として、被告増田かぎは内金五万円に付同様被告福島と連帯して夫々右金額及之に対する支払命令送達後である昭和三十年十一月二十三日以降完済迄民事法定利率年五分の割合による遅延損害金を加算支払うべき義務あること明である。原告其の余の請求は失当として之を棄却すべきものとし訴訟費用の負担並に仮執行の宣言に付き民事訴訟法第九十二条第九十三条第百九十六条を適用して主文の通り判決する。

(判事 浜田従六)

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